研究テーマ

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理科大・慈恵共同プロジェクト概要

2010年に東京理科大学 工学部と東京慈恵会医科大学 医学部 脳神経外科は共同研究を開始しました.以来,脳血管疾患や脳卒中に関連する様々な問題に対し,医学的かつ工学的な側面の両端からアプローチを行うことで,今までにない新しい知見を見出してきました.研究対象は脳動脈瘤を始めとした脳血管疾患や脳卒中全般,治療用デバイス等に対するものなど多岐にわたります.医療情報はもとより,工学的側面からは数値流体力学 (CFD: Computational Fluid Dynamics)や構造解析といったシミュレーションの活用による研究に取り組んでいます.また,シリコーン製の模擬血管 (シリコーンモデル)と粒子イメージ流速計測法 (PIV: Particle Image Velocimetry)計測による実験的手法を用いた研究や人工知能 (AI: Artificial Intelligence)を用いた新たな診断ツールの開発にも取り組むことで,診断精度と治療効果を高めた次世代の高水準医療の実現を目指しています.

脳動脈瘤の破裂予測

くも膜下出血は発症者の約3割がその場で死亡し,死亡を免れた場合でも重篤な後遺症を残したり,寝たきりとなってしまうことの多い非常に危険な病気です.脳動脈瘤の破裂はこのようなくも膜下出血を引き起こす可能性があります.脳動脈瘤とは,脳血管の壁面が膨らむことで袋状になる脳血管疾患の一種で,近年では脳ドックの普及や血管撮影法などの発達により未破裂脳動脈瘤の早期発見が可能となっています.未破裂動脈瘤の破裂を防ぐための手術には開頭手術によるクリッピング術や体への身体的な負担の少ない (低侵襲)コイル塞栓術などが必要ですが,共に患者さんにとってリスクや費用負担,精神的な負担が大きなものとなります.さらに脳動脈瘤は全てが破裂するとは限らず,その破裂率は約1%といわれていることもあり,手術に踏み切れない患者さんも多くいます.手術の判断については,ほとんどが医師の経験により下されているのが現状です.そこで,動脈瘤の破裂予測を数値的に評価することができれば脳動脈瘤に悩む多くの患者さんを救うことが可能となります.本研究ではCFDを用いて脳動脈内の血流を解析することで,脳動脈瘤の破裂に関与する因子を調査するとともに,脳動脈瘤の破裂予測を行うことを目的としています.

脳動脈瘤の成長因子の特定

脳動脈瘤は血流の影響によって徐々に成長するとともに,脳動脈瘤の壁に薄い部分 (菲薄部)が生じ,その部分から破裂する可能性が指摘されています.脳動脈瘤が成長し,菲薄部が生じる原因には,例えば血流によって瘤壁が強く引っ張られたり,壁のある一点に血液が集中して衝突することで,壁に負荷がかかることなどが考えられます.脳動脈瘤の成長に関係する因子を特定し,菲薄部の特定が可能となれば,脳動脈瘤が破裂する前に治療を行うことが可能となるばかりでなく,コイル塞栓術時における術中破裂のリスクを減らすことにも繋がります.我々は脳動脈瘤内の血流を,CFDを用いて解析することで,脳動脈瘤の成長因子と菲薄部の特定を行い,手術適応の症例を見極めたより安全な脳動脈瘤治療の実現を目指します.

コイル塞栓術による血流抑制効果の解析

脳動脈瘤の治療にはしばしばコイル塞栓術と呼ばれる外科的手法が用いられます.コイル塞栓術では脳動脈瘤内にプラチナ製のコイルをマイクロカテーテルにより留置し,瘤内部を血栓化させることで破裂を防ぐものです.本研究では構造解析を用いて,脳動脈瘤内部へのコイル留置をシミュレーションしています.実際の臨床に用いられているコイルを忠実に再現して解析を行うことで,コイルの硬さや長さといった因子が脳動脈瘤内部におけるコイルの分布や血流抑制効果に与える影響について調査を行っています.

コイル塞栓術後の再開通予測

再開通とは脳動脈瘤に対してコイル塞栓術による治療を行ったのにも関わらず,血流が再び瘤内部へと流入してしまう現象のことです.再開通は詰めたコイルが潰れてしまうコイルコンパクションや脳動脈瘤の再成長により発生しますが,これらは血流による影響が関与していると言われています.脳動脈瘤に対してコイル塞栓術による治療を行うと,約数パーセントの患者さんが再開通をきたすというデータもあります.再開通が発生すると脳動脈瘤破裂のリスクが高まるため,場合によっては再手術が必要となりますが,そうなると患者さんには精神的,肉体的,経済的な負担がかかります.本研究ではCFDを用いた血流解析により,再開通発生に与える因子の特定を行うと同時に,再開通を予防するためのコイル塞栓術の手法について調査を行っています.

Flow Diverterステントの特性と効果の解析

近年,脳血管疾患である脳動脈瘤に対し,脳動脈瘤の頚部にFlow Diverterというステントを置くことで,血液の流れを変え,動脈瘤内への血流を妨げ,血栓化を起こす治療法が行われています.しかし,この治療法に関して,どのようなステントを使用すれば最善の治療になるかは明らかになっておらず,治療後に瘤が破裂し亡くなった患者が報告されています.本研究では,患者固有の脳動脈瘤形状を使用したステント留置後の血流解析,およびステントに対する構造解析を行うことで,ステントの血流に対する影響や構造力学的特性を評価しています.それにより,ステントの留置による血流動態の変化とその危険性を明らかにすること,患者個人に対するステント治療の術前評価,および患者個人に対して最適なFDの選択を可能にすることを目的としています.

脳梗塞既往と関連した頸動脈狭窄症の血流解析

脳は全身に必要な酸素の約20%を消費する臓器であり,左右の頸動脈,椎骨動脈が適切な血流の供給を担っています.頸動脈は屈曲や分岐の多さから粥状硬化性変化を起こしやすく,特に内外頸動脈分岐部では粥状硬化性変化による動脈の狭窄,プラークの形成が生じやすくなっています.頸動脈の狭窄による脳血流の低下やプラークの破裂で生ずる脳梗塞は生命予後を悪化させる可能性があります.そこで,頚動脈狭窄症の治療のため内膜剥離術 (CEA: Carotid Endarterectom)やステント術 (CAS: Carotid Artery Stenting)が行われています.現在,狭窄率を主な基準として治療方針を決定することが一般的ですが,脳塞栓症の病態は解明されていない点もあるため,狭窄率のみではなく,治療にはプラークの性状や狭窄部の血行動態を考慮しなければならないと考えられています.本研究では,頸動脈狭窄症患者のデータを基にCFDを用いた血流解析を行い,脳梗塞の既往の有無と流体力学的パラメータの関係を解明することを目的としています.

STA-MCAバイパス術前後の血行動態評価

脳内に十分な血液が供給されなくなる,いわゆる脳虚血性疾患は,脳梗塞に繋がる可能性が高い危険な症状です.脳虚血性疾患の外科的治療法の一つに,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術 (STA-MCAバイパス術)があり,これは,頭皮を栄養する動脈であるSTAを,脳内血管であるMCAに繋ぎ (吻合し),頭蓋外から脳内へと血液供給を図るための手術です.しかし,現在までにその有用性に関する一定の見解は得られておらず,今尚議論が続けられています.本研究では,脳虚血性疾患 (内頚動脈閉塞もしくはウイリス動脈輪閉塞症 (もやもや病))を持つ患者を対象とし,STA-MCAバイパス手術前および手術後,経過観察中における形態学的・血行力学的パラメータの変化を血流解析によって調査しています.それにより,各脳虚血性疾患に対するバイパス手術の影響や,適切なバイパス手術条件などを定量的に導くことを目的とし,研究を行っています.

血流評価のためのSSPIVを用いた脳動脈瘤モデル内流れ場計測および3次元壁面構築

脳動脈瘤の発生・成長メカニズム解明のため,現在,数値計算および実験による瘤内の血流評価が行われています.特に実験は,より体内に近い環境下での計測が可能であることから,数値計算の妥当性評価としても重要な役割を果たしています.しかし,その煩雑さからデータ数は不足しているのが現状です.そこで我々は,シリコーン製脳動脈瘤モデル内の3次元流動を計測可能なスキャニングステレオPIV (SSPIV)を用いた,自動流れ場計測システムを構築しています.現在までに,一般的な大きさ (10mm程度)のモデルにおいては約1時間,先行研究で構築されていたシステムの1/4の時間で計測が可能になりました.また近年,破裂への関与が示唆されている壁面せん断応力 (WSS)の実験的算出を実現するため,拍動による周期的変形を伴った瘤モデル壁面の3次元構築アルゴリズムを開発しています.

Flow Diverterステントを留置した脳動脈瘤モデル内のPIVによる血流動態評価

Flow Diverterステント (FD)は未破裂脳動脈瘤の新しい治療デバイスとして注目されています.FDによる治療成績は80-90%と良好ですが,瘤の破裂など当初予想されなかた合併症も報告されています.これらの合併症はFDを留置したことで変化した血流が原因だと考えられています.本研究では,シリコーンモデルにFDを留置し,FD留置前後の瘤内の血流変化をPIVで評価することで,FDの留置が血流に及ぼす影響を解明することを目的としています.

圧力損失測定によるFlow Diverterステントの性能評価

FDの目的は,親血管から脳動脈瘤内へ流入する血液を遮断,瘤内部の血栓形成を促進し破裂を予防することです.本研究では,流体力学的な観点からFDの圧力損失を測定することで,FDのワイヤ本数や径の差異が血流に及ぼす抵抗を算出し,FDの性能を評価することを目的としています.

シリコーンモデルの製作方法の最適化と特性評価

脳動脈瘤を模擬したシリコーンモデルの製作工程要素の一つ一つは最適化がされておらず,計測実施までに多くの時間を要します.本研究では,少しでも多くの症例を計測するために,シリコーンモデルの製作工程の最適化を行っています.また,生体血管とシリコーンモデルでは,硬さや弾性率等,機械的特性が異なるため,これらの差異が及ぼす血流評価への影響を調査しています.